東京高等裁判所 昭和38年(行ナ)72号 判決
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〔判決理由〕(審決を取り消すべき事由の有無)
二 本件審決は、本願の刷子は、第二引用例のような型式の刷子における鋼線の挾持手段として、第一引用例の刷子におけると同様な挾持手段を採用したものであり、作用効果においても第一引用例および第二引用例のそれを併せ有するにすぎず、これら引用例のものから容易に考案できるものとした点において、判断を誤つたものといわざるをえない。すなわち、
第二引用例には、一定長の鋼線(1)の中央部を円環(3)を挾んで折り曲げ、これを円錐形状(皿状)の外板(4)とほぼ同形の内板(2)によつて挾みこれらの板を外板の中心孔(5)において、すなわちその水平部でかしめることによつて形成した椀状廻転鋼線刷子(別紙第三参照)が記載され、これを本願の刷子と比べると、両者の一致点は、保持体に中央部を折り曲げて装着した鋼線を、断面皿状の外板とこれとほぼ同形の内板の傾斜部との間で挾持し、これらの各板を水平部において固着している椀状鋼線刷子である点であり(本願の刷子の皿状の外板(4)および内板(5)は、それぞれ第二引用例の刷子の皿状の外板(4)および内板(2)に相当する。)、相違点は、(一)鋼線の保持体への装着を、本願の刷子では、保持体である皿状中板(2)の傾斜部(2)に設けられた適当数の嵌合孔(3)に、鋼線(1)の中央部を嵌合しているのに対し、第二引用例では、保持体である円環(3)を鋼線(1)の中央部で挾んでしている点、(二)鋼線を装着している保持体の内板および外板への取付けは、本願の刷子では、保持体である皿状中板(2)をこれとほぼ同形の内板(5)と外板(4)との間に介在させ、これらの板を水平部で鋲着する構成であり、したがつて、鋼線(1)を皿状の中板(2)と内板(5)および中板(2)と外板(4)のそれぞれの間に支持するようになしているのに対し、第二引用例では、保持体である円環(3)を皿状の内板(2)と外板(4)で挾み、外板の中心孔(5)においてこれらの板をかしめて結合させる構造であり、したがつて、鋼線(1)を水平部で固着される皿状の内板(2)および外板(4)の間だけで支持している点である。
そこで、これらの相違点を検討するに、第一引用例には、獣毛または鋼線の束(5)の中央部を、円形芯板(3)の周囲に穿つた適当数の植毛孔(4)に嵌合して折り曲げ、植毛孔の孔辺より円形芯板の中心に向けて施した二条の切目(8)により形成された立ち上り舌片を倒したうえ、(い)これらの円形芯板(3)を、それより小径の充填板(間板)(10)と交互に重ね、両側の充填板(10)にはこれより大径の円形当板(6)(6)を当接したうえ、これら各板を鋲締すれば、各板は互いに密接し、充填板(10)は、その強圧により、獣毛または鋼線の束を孔辺の外側半周に対して圧迫し、確実に挾着把持する構造の研磨用刷子(別紙第二参照)が記載されている。したがつて、第一引用例には、右相違点に関しては、(あ)において、相違点(一)における「適当数の嵌合孔(3)に、鋼線(1)の中央部を嵌合」に相当する構成がみられるほかには、なんら記載または示唆するところがない。被告は、本願の刷子は、第二引用例の刷子における鋼線の挾持手段として第一引用例の刷子における鋼線の挾持手段を採用したもの、すなわち、充填板は刷毛材料の層が単一の時には不要であり恣意に取り除きうることを前提とし、本願の椀状鋼線刷子は、第一引用例の円板状刷子の刷毛材料の層を単一にしたうえ、充填板を取り除き刷毛材料を装着している円形芯板と両側の円形当板とを皿状に折り曲げたものに相当すると主張するが、前認定の第一引用例の充填板(10)の果たす役割からみて、充填板は、立ち上り舌片(9)を倒した状態に保つとともに充填板を挾む各板(円形当板(6)と円形芯板(3)または円形芯板(3)(3))の鋲着による近接を刷毛材料によらないで制限するものであるから、その必要性は、刷毛材料の層の単複には全く関係のないものというべく、したがつて、この主張はその前提において誤つており理由がない。
しかも本願の刷子は、以上のような構成をとつたことにより、つぎのようなすぐれた作用効果を有することが認められる。すなわち、<証拠>ならびに弁論の全趣旨を総合すると、(A)本願の刷子における鋼線(1)の皿状中板(2)と内板(5)および外板(4)による支持ならびにこれらの板との接触面積は、第二引用例におけるそれよりも強くまた広いから、作業時の鋼線(1)の遠心力による外方への拡がりは少なく、刷子はその全面積をもつて被加工物と摺接してこれを研磨し、作業能率がよいことと相まち、作業時における鋼線(1)と各板および鋼線(1)相互の摩擦が少ないので、その損傷は少なく、(B)本願の刷子では、皿状中板(2)は内板(5)および外板(4)に鋲着によつて結合されているから、刷毛に部分的に強い研削力が加わつた場合でも、刷毛は傾くことがないのに、第二引用例の円環(3)は、内板(2)と外板(4)により挾まれたうえ締め付けられたものであるから、右のような場合に、円環(3)は刷毛とともに傾くおそれもあり、(c)本願の刷子では、鋼線(1)には、皿状中板(2)への取付部のほかに折曲部がないから、その長さは、円環(3)を内板(2)と外板(4)との間に挾持するための折曲部を有することになる第二引用例の鋼線(1)より短く、したがつて、材料の節約となることが認められ、これを左右するに足る証拠はない。
以上認定したところから明らかなとおり、本件審決は、結局、本願の刷子において、鋼線(1)を装着した皿状中板(2)をこれとほぼ同形の内板(5)と外板(4)との間に介在させ、鋼線(1)を皿状の中板(2)と内板(5)および中板(2)と外板(4)のそれぞれの間に支持するようにして、これらの板を水平部で鋲着したという構造のもつ技術的意味および第一引用例の充填板(間板)(10)の有する機能を看過誤認し、これを前提として、本願の刷子は第一引用例および第二引用例に示された技術から容易に推考しうる程度のものであるという誤つた判断を導くに至つたものといわざるをえない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、その理由があるものということができる。よつて、これを認容する。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)